ご挨拶
上廣国際日本学研究部門部門長/日文研教授
瀧井 一博

上廣国際日本学研究部門部門長/日文研教授
瀧井 一博
かつて、ジャパン・アズ・ナンバーワンともてはやされた時代がありました。圧倒的な経済力を誇った日本を世界が驚嘆と羨望のまなざしで眺めました。その時代はとうに過ぎ、今や日本はグローバリゼーションのもとで混迷する経済、少子高齢化、政治的分断、気候変動といった様々な問題に直面する普通の国になったように見えます。
しかし、その一方で、世界の様々な地域や国々で、日本への知的関心は持続しています。むしろ高まっているといっても過言ではありません。いちはやく西洋へのキャッチアップを遂げた日本への関心は、非西洋圏において依然として高いものがありますし、それはこれからも続いていくでしょう。また、豊かで多様性に富んだ日本文化への海外からの需要にも目を瞠るものがあります。日本の歴史や現代文化へのニーズは、世界の各地から聞こえ、そして潜在しています。その要請に応えることで、日本の歴史や文化を省察し、グローバルアクターとしての日本のモラルを追求したい。日本研究のニーズを掘り起こして、これから日本研究を担っていく多様な知的リーダーへの学術的支援と対話を促したい。上廣倫理財団の御厚意を得て、日文研に上廣国際日本学研究部門を立ち上げたのは、そのような思いからです。 日本社会が直面している問題は、世界共通の問題でもあります。私たちは、日本研究を通じて、人文知を究めながら、世界が少しでも明るく、生きるに値するものとなるようにと心に期して、活動を進めてまいります。
上廣倫理財団 事務局長
丸山 登

上廣倫理財団 事務局長
丸山 登
本日の、新研究部門の開設を心からお祝い申し上げます。上廣哲治会長の代理で、ご挨拶を申し上げます。井上章一所長をはじめ、今回、貴研究センターが私共のささやかな寄付を受け入れてくださる上でご尽力を賜りました瀧井教授、研究部門副部門長をお引き受けくださった片岡真伊准教授、研究所の皆様に心より感謝申し上げます。周雨霏准教授、モハッラミプール助教の就任もお祝い申し上げます。そして、本日のセミナーにご参加いただきました、皆様に心より御礼を申し上げます。
本研究所のミッションは、本日のセミナーのテーマである「グローバルな日本研究の展開」という言葉に集約されていますが、本日の聴講を楽しみにしています。日文研の皆さまには当財団設立当初から、大変お世話になって参りました。今世紀初頭、東京の日比谷公会堂で主催した文化講演会「人生後半を考える」では初代センター長の梅原猛先生が「私の学問人生」と題して2000人を前に講演され、のちにNHKラジオでも多くの聴取者に感動を与えました。二代センター長の河合隼雄先生からは、財団設立当時、私が直接ユング心理学を学び、当財団の文化・教育活動の充実に役立ちました。
瀧井一博教授とは、京都大学近代政治史の伊藤之雄教授の研究会で知り合い、15年以上 の交流があります。磯田道史教授とは、江戸東京博物館館長の竹内誠先生が主宰されていた「日本人の再発見」の研究会でご一緒して以来の長いお付き合いです。
半年前、井上所長から『ヤマトタケルの日本史』をいただきました。それは、古代から現代までの日本文学の歴史を、ヤマトタケルを中心に深く掘り下げた本でした。古代の神話が国民に与えた影響について、独自の論調で語られており、私はその本に魅了され、久しぶりに『古事記』や『日本書紀』などを読み返し、日本の文化の豊かな恵みを改めて感じました。
先月、10月1日にはオックスフォード大学に上廣オックスフォード研究所が設立されました。初代所長はギリシャ哲学のロジャー・クリスプ教授です。15年ほど前に、クリスプ教授を日本の東大や東北大での講義に招きました。初来日の際には、私は、教授を日本文化の代表として歌舞伎に案内しましたが、彼は目の前の演目とシェークスピア劇を比較しながら、深い理解を示してくれました。その時、私は、文化は国境を越えることを改めて実感しました。
日本は、政治的な変動期に入っています。国力とは何かを考えるとき、 経済力、政治力、外交力に優れているのは当然であると思います。私は、豊かな文化こそ、国際社会における強みだと思います。だからこそ、日文研の存在はこの国にとって必要であり、なくてはならないものなのであります。
長い歴史の中で、私たちは日本文化から多くのものを授かってきました。次の課題は日本人が日本語で日本文化を理解するだけでなく、英語や中国語など多様な言語を用い、海外に向けて、いかに日本文化を表現し、伝えることができるか、という点だと思います。
1961年にジョン・F・ケネディが大統領に就任したとき、日本の記者からの「最も尊敬する日本の歴史上の人物は誰か」という質問に対し、大統領は「上杉鷹山」と答えました。ケネディ大統領は内村鑑三の英語版『代表的日本人』を読み、前大統領アイゼンハワー時代から始まった不況を打開するために、150年前の江戸時代、すでに倒産状態にあった極貧の米沢藩を立て直した上杉鷹山の改革を学んでいたのです。改めて、内村鑑三が英語上杉鷹山の功績を英語で世界に発信した影響の大きさを感じます。
世界中の人々が日本文化を知り、楽しみ、愛してくれるようになれば素晴らしいことです。上廣寄附部門の皆さんには、内村鑑三のはたらきがジョンFケネディに影響を与えたように、海外の人々に日本文化を理解してもらい、愛してもらえるような努力をご期待したいと思います。私たちも、部門の皆様に努力を要請するだけでなく、研究や教育、国際発信の努力を見守り、サポートし、必要に応じてしっかりと支えていきたいと思います。本日はおめでとうございます。
上廣倫理財団 丸山登事務局長
本部門開設記念セミナー「国際日本研究のすそ野を広げる」
(第281回日文研木曜セミナー、2024年11月21日)での来賓祝辞